『三つの時計が刻む、家族の時間』第3章|一枚のガラスから生まれる、三つの時計
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「実物、見てみたいね」
そう言った数日後。私たちは、もう一度あの時計のページを開いていた。
写真を見たときから、なぜかずっと気になっていた。ステンドグラスの時計。結婚式の両親へのプレゼントとして、時計を選ぶ。それだけなら、他にもたくさん候補がある。
それなのに、この時計だけは、なぜか気になって仕方がなかった。
ステンドグラスの時計に魅せられて
新婦さんもう一回、見てみようか



うん
画面に映し出された時計を、二人でじっと眺める。
色とりどりのガラス。光を受けて表情を変える、ステンドグラス。そして、その時計が三つ並んでいる写真。





やっぱり、きれいだね



うん。結婚式にも合いそう
画面をスクロールすると、そこには私たちがまだ知らなかった、時計の意味が書かれていた。
「想いをカタチにする贈り物」


ページに書かれていたのは、「想いをカタチにする贈り物」という言葉だった。



想いを……カタチにする
思わず声が漏れた。この言葉を読んだ時、もしかしたら私がずっと探していたのは、これかもしれないと思った。
両親へのプレゼントを探し始めてから、ずっと考えていた。「ありがとう」を伝えたいということ。でも、ただ「ありがとう」と書かれたものを渡したいわけではない。
私が両親と過ごしてきた時間。
これから先も、離れて暮らしながら続いていく時間。
それらを含めて、何かの形にできたらいいと思っていた。



これ、結婚式で両親に渡すための時計なんだね



そうみたい
画面を読み進めていくと、「つながる時計」は、結婚して新しい家族を作る2人と両家をつなぐ贈り物として作られていることがわかった。
「両親へのプレゼント」だけではない。結婚をきっかけに、これまで別々だった二つの家族が、新しい家族としてつながっていく。その節目に贈る時計。
私は、もう一度繋がった三連時計の写真を見た。



この時計が、それぞれの家で私たちをつないでくれるのね
一枚のステンドグラスから三つの時計が生まれる
読み進めていくと、この時計が、「ただ三つに分かれているわけじゃない」ことがわかった。
この時計は、一枚のステンドグラスから三つの時計を作ることができるらしい。



えっ……一枚から?
思わず驚いて大きな声を出すと、彼も食い入るように画面を見つめた。



一つのものから三つに分かれていくのは、家族って実感が湧くね
「つながる時計」のステンドグラスは、一つひとつを金属でつなぎ合わせて作るらしい。ティファニー方式と呼ばれる技法で頑丈に固める様子が、揺らぐことのない固い絆を表しているという。



家族がいつまでも一緒にいられるようにって、意味も込められるね



言葉にするのは気恥ずかしいけれど、想いの籠もった物を渡せるのはいいね



何も言わなくても、それぞれの家で絆が感じられるのも嬉しい
色とりどりのガラスに込められた、二人のこれまでとこれから


さらにページをスクロールしていくと、色の違うガラスが組み合わされた、さまざまな時計の写真が出てきた。
赤や青、黄色や透明なガラス。同じステンドグラスの時計でも、色の組み合わせによって雰囲気がまったく違う。



これ、全部違うんだね
色とりどりのガラスをつなぎ合わせて作るステンドグラスには、二人が歩んできた人生や、これから二人でつくっていく新しい家族の色模様という意味が込められていた。
あの日、式場で見たステンドグラスは光を受けるたびに、それぞれの色が違った表情を見せていた。二人がこれまで歩んできた人生も、きっとこんなふうに、違う色をしていたんだと思う。育った場所も、家族も、思い出も違うのだから。



一つの時計に、二人のこれまでの時間を表せるのはいいね



本当だね。色を選ぶのも楽しそうだ
ただ、同じ時計を三つ買うのとは違う。



私たちが選んだものが、お互いの両親の家に置けるのはいいね



二人で作った時計が、三つの家にあるんだね
私は彼の言葉を聞きながら、三つの時計が置かれた未来を想像した。
私の実家のリビング。彼の実家の部屋。そして、私たちが暮らす家。そこに、同じ一枚のステンドグラスから生まれた時計がある。
離れていても、同じものを見ている。それぞれの場所で、それぞれの時間を過ごしている。



なんだか、結婚の実感が湧いてきたかも
「これが、私たちの贈り物かもしれない」


しばらく二人とも黙って、画面を見ていた。
これまでは、どれも素敵で一つの物を選ぶことができなかった。どれも素敵で、どれも捨てがたくても、でもどれもどこか違っていた。
でも、今は違う。



……私、これがいいかも
彼が私を見る。



俺も
短い言葉だった。でも、今度は迷いがなかった。
花束も素敵だった。写真立ても、名前入りの記念品も素敵だった。普通の時計だって、きっと両親は喜んでくれる。
それでも、私たちが贈りたいと思っていたものは、ただの「記念品」ではなかった。
これまで育ててくれたことへの感謝。
これから始まる私たちの新しい生活。
そして、結婚をきっかけにつながっていく三つの家族。
その全部を、一つの贈り物に込めたかった。



一枚のガラスから三つの時計が生まれるって、なんだか私たちみたいだね



俺たちみたい?



だって、別々だった家族が、結婚して一つにつながって。繋がっても、三つの家族がなくなるわけじゃないもの
彼も画面を見ながら、少し考えていた。



それぞれの家族のまま、つながっていくってことか
その言葉を聞いた瞬間、私は「ああ、これだ」と思った。
私がずっと探していたのは、「両親へのプレゼント」ではなかったのかもしれない。
伝えたかったのは、「今までありがとう」だけではない。
これからも、それぞれの場所で一緒に時間を重ねていきたい。
そんな気持ちだったのだ。



つながる時計……か
その名前を、私はもう一度口にした。
これから私たちが、それぞれの家で刻んでいく時間。
そして、その三つをつないでいるもの。
それは、私たちが探していた「両親へのプレゼント」の名前であると同時に、これから始まる、私たち家族の物語の名前のようにも思えた。
その日、私たちは初めて、両親へのプレゼントを決めた。結婚式の日、三つの時計が並ぶ姿は、まだ想像の中だ。それでも私は、なんとなく予感していた。
きっと、両親がこの時計を見たら、この一枚のガラスに込められた私たちの想いが、伝わるのではないかと。
そして、三つの時計がそれぞれの家に置かれたとき。私たちの新しい時間も、きっと始まるのだ。
三つの家に、三つの時計。
それぞれの場所で、同じ時間を刻みながら。
家族の時間は、これからも続いていく。
私たちの結婚式まで、あと少し。両親への贈り物が決まって、少しだけ肩の荷が下りた気がしていた。
けれど、結婚式にはまだ、決めなければならないことがたくさんある。
「実際に現地で作ってみたいけど、そんな時間もお金もないよね」そんなふうに考えていた私に、彼が言った。
「一生に一度なんだから、やりたいならやろうよ」両親への贈り物として選んだ「つながる時計」。
次は、それを二人の手で形にすることになる。
二人で過ごす、結婚式までの時間もまた、私たちの大切な思い出になっていく。

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